ジパング

鯨尺をご存知ですか

「尺」という長さを測る単位がある。中国を起源として日本で独自に発達した、尺貫法の基本となる単位である。「尺」という文字は親指と人差指を広げた形をかたどったものであり、元々は手を広げたときの親指の先から中指の先までの長さを基準としていた。現在1尺は30.3cmとされている。昔の人は手が大きかったということではなく、時代を経るごとに長くなってきたようだ。丈夫という言葉がある。この「丈(じょう)」も長さの単位であり1丈は10尺である。男子の身長が1丈にも達すると成人として認められたことが丈夫という言葉の起源とされている。もちろん、これも3mということはない。1尺の長さが指を広げたときの長さ、約18cmだった時代の名残である。

ちなみに西洋の「フィート」は30.48cmと規定されており、これはほぼ「尺」の長さに近い。「フィート」の語源はフット、つまり足である。ともに身体尺であることでは一致している。明治時代に日本に映画が入ってきたが、映画の長さは「フィート」であらわされていた。当時の日本は尺貫法だったので、長さが近い「尺」で言い表すようになった。現在でも映画・芸能関係で、「長尺もの」とか「尺が長い」という言葉が使われているのはその名残である。

さて、「尺」には「曲尺(かねじゃく)」と鯨尺「(くじらじゃく)」があるのをご存じだろうか。これまで話してきたのは、「尺」のなかの「曲尺」のことである。「曲尺」は昔から木材等の長さを測る単位として建築の現場で使われてきた。一方、布を測るのに使われてきたのが「鯨尺」であり、和裁の世界では今でも健在である。この二つは長さが微妙に違っていて、「鯨尺」の1尺は約37.9cm、「曲尺」の1.25倍ということになる。六尺褌とか三尺帯といったときは「鯨尺」の長さのことである。六尺褌の六尺は、約182cmではなく約228cmが正しい寸法なのである。ちなみに「鯨尺」という名の由来は、布を測る物差しが鯨のひげ板で作られていたことにある。

  反物を買うときに表示を見ると、1反の長さが12.2mであったり、11.8mであったりと、まちまちである。実をいうと、1反は何尺というはっきりとしたきまりはなく、便宜上「尺」でもわかるように換算しているだけにすぎないのだという。1反は成人1人前の衣料に相当する面積とされていて、度量衡ではっきりと定められた単位ではないのだ。そして「反」の2倍が「疋」である。2反分をひと続きとした織物の単位で、大人の着物と羽織を対で作れる大きさである。はっきりとした長さを決めずに、「反」、「疋」という単位を定めた日本の文化は西洋では考えられないものかもしれない。日本の文化は曖昧と思われる中に実は合理性を含んでいるのである。それでなければ今日まで着物文化は残されなかったであろう。

その「鯨尺」は、法律によって1959年以後、長らく使うことができなかった。それを復活させたのが、昨年故人となられた放送作家の永六輔さんたちである。
メートルは地球の大きさが元になっているが、やはり建物や着物は身体尺=人間の大きさが元になっているほうが、どこかピッタリくるのかもしれない。
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